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最後の一匹

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田中さんは、定年退職後、長年の夢だった釣りの腕を磨くことにしました。
毎週末、近くの川や湖に出かけては、のんびりと釣り糸を垂れる日々。
ところが、どういうわけか、一向に魚が釣れません。
ある日、田中さんは釣具屋で、噂の「必ず釣れる」という新しい釣り餌を見つけました。
値段は少々張りましたが、これで一発逆転を狙おうと思い、購入しました。
その週末、いつもの湖に向かった田中さん。わくわくしながら新しい餌を付け、釣り糸を投げ入れました。
すると、驚いたことに、次々と魚が釣れ始めたのです!
大喜びの田中さんは、どんどん魚を釣り上げていきました。
気がつけば、バケツは魚でいっぱい。「これで十分だな」と思った矢先、また強烈な引きが。
「おお!最後の一匹だ!」と意気込んで引き上げると、なんと水面から現れたのは、小さな人魚でした。
驚く田中さんに、人魚は言いました。
「おじさん、私を逃がしてくれたら、何でも一つ願いを叶えてあげるよ」
田中さんは考えました。
そして、こう答えました。
「実は、私には50年連れ添った妻がいるんだ。彼女をもっと幸せにしてやりたいんだが…」
人魚は微笑んで言いました。
「分かったわ。奥さまを若返らせて、美しくしてあげましょう」
田中さんは首を振りました。
「いや、それじゃない。妻は今のままでいい。代わりに…私を釣りの達人にしてくれないか?」
人魚は呆れた表情を浮かべ、ため息をつきました。そして、こう言いました。
「おじさん、奥さまに聞こえないようにね」
田中さんは思わず吹き出してしまいました。
その日の夕食時、妻に今日の出来事を話すと、妻も大笑い。二人で笑い合う、そんな幸せな夜でした。